野生ヒラタケの純粋培養→種菌化→栽培に成功!

畑のいろいろ

僕らの家の裏にある立ち枯れの巨木に毎年生える野生のヒラタケ。
毎年10月ごろに発生して、僕らの秋の楽しみになっていましたが、年々発生部位が下がってきて、6年目くらいになる今年はついにおへその高さくらいにまで下がってきたのでした。

発生部位が下がる分には収穫がしやすくなってよかったんですが、去年から収穫減の兆候も見え始め、なんとなくこの巨木の榾木としての寿命が気になりだしました。

そこで、僕はある考えを思いつきました。

この菌株を種菌化して拡大培養できないかな?

と。

実は、種菌の拡大培養自体は技術的には意外と簡単で、種苗法の適法範囲内、つまり自家用としてなら、法律的にも問題なくできまして、実際僕も何度かやったことがありました。

やり方は、広葉樹のおがくずと米ぬかを混ぜたものを瓶に詰め、瓶ごと大きな鍋に入れて薪ストーブの上で丸一日湯煎滅菌して、放熱して、そこに種菌を播種して2か月くらい放置するだけ。播種作業時に蓋の開け閉めを一瞬で行えばコンタミはほぼ起きないです。

ただこれは元の種菌があればこそできることでして、どうしても最初は種菌を買わないといけないんですね。そして、現在、巷で購入できる種菌ていうのは、ほとんど全部権利付きの品種しか選べないっていう制約があります。

数年前までなら、種苗法が今よりちょっと緩かったんで、自分で拡大培養した種菌から子実体(きのこの部分)を栽培して販売してもよかったんだけど、法改正により種菌そのものだけじゃなく栽培した子実体にまで権利保護の範囲が広がりまして、自家用以上の利用ができなくなってしまいました。

菜園愛好家としては、「なんてつまらない世の中になってしまったんだ!!!」って感じなんですが、まあそれはそれで仕方ないとしても、黙って従うほどには僕は従順じゃないんです(笑)

え、野生株なら拡大培養して売ってもいいんでしょ?ってなっちゃうんだよねw

まあそういうわけで、寿命が近そうな榾木からアウトロー精神を呼び起された結果、去年の秋ごろ、野生ヒラタケの純粋培養&種菌化を試みたのでした。

子実体から無菌の部位を取り出して培養

拡大培養にあたって、最初はふつうの購入菌糸を使うときのように、榾木のかけらを直接無菌おがくず培地に播種してみました。

その結果がこちら↓

榾木のかけらを接種して播種してみると・・・
めっちゃコンタミしたw

ヒラタケの菌糸っぽいのも蔓延してますが、青のりみたいに見えるのは雑菌かトリコデルマ菌で、この方法での種菌化は失敗しました。榾木をそのまま種菌として播種するとやはりめっちゃコンタミしますね(笑)

そこで今度は、ポテトデキストロースアガー培地(PDA培地)すなわちジャガイモ寒天培地をつくり、そこに、子実体の内部をうちのキッチンでできる限りの無菌状態でサイコロ状に切除したものを接種してみました。

クリーンベンチでもなんでもない普通のキッチンでの作業なのでほとんど気休めですけど、一応、作業台はエタノール消毒し、カッターは炙って消毒し、ガスコンロに火をつけ上昇気流をつくり、そのそばで作業しました。雑菌の胞子などがサイコロと一緒に培地内に入らないようにするためです。

培地はA、B、Cの3つ用意し、それぞれに一個づつサイコロを播種し、ふたを閉め、経過観察しました。3個あればまあどれかは成功するでしょっていう楽観論の下、培養スタートです。

きのこの軸の内部を、消毒したカッターを用いてサイコロ状に切り出した。
このサイコロをできる限りすばやく培地内に播種し、培養開始。
数日後、サイコロからぶわっと菌糸が出てきた!
けど同時に、培地AとBには酵母っぽいモヤモヤが培地表面に生えてるかも?
左からABC  培地Cだけ様子が違う。AとBはコンタミ濃厚か?
培地C この培地はコンタミなしか?
数日後の培地B(コンタミ疑い)、ヒラタケの胞子成長が止まり、酵母っぽいモヤモヤが厚くなってきた。
お、培地Cだけは菌糸オンリーなのでは?
さらに数日後、やはり培地Cだけはコンタミしてないっぽいぞ!
菌糸がどんどんモコモコ成長してきた!成功だ!!!

結果、培地Aと培地Bはたぶん酵母菌もしくはバチルス菌による汚染で菌糸の成長が途中で止まってしまいましたが、培地Cだけはコンタミせず、播種から10日ほどで、培地表面をモコモコ菌糸が覆った状態になりました。1瓶だけでもこの状態になれば成功といっていいでしょう!

培地Cだけ特別に条件を変えたわけではないので、ふたを開けてサイコロを入れるときに、偶然、雑菌の混入がなかったようです。これはもはや奇跡といっていいかも。うん、「2023年冬、キッチンの奇跡」と呼ぶべきだ(笑)

モコモコ菌糸をおがくず培地へ移植

そして今度は、このモコモコの菌糸を滅菌したスプーンですくって、拡大培養用のおがくず米ぬか培地に移植します。培地Cから、まずは小瓶ふたつに分けて接種し、小瓶を埋め尽くすほどに菌糸が成長したら、それをさらに大瓶の培地に移していきます。

(接種直後の写真はちょっと見当たらなくてごめんなさい。でもまあ、PDA培地上でモコモコ菌糸ができた段階で勝ち確定みたいなもんなんで。)

接種から2週間くらい経った頃には菌糸の成長が8分目に達した。
小瓶からさらに移植して大瓶へ。これが最終的な種菌となる。
大瓶に移植して20日後、半分くらいまで成長した。
さらに約20日後、種菌の完成!

野生ヒラタケの子実体からサイコロを切り出して培地に播種したのが12/16で、大瓶の種菌の完成が2/22。日数にして約70日ほどで種菌の作成に成功しました!!

これで、種苗法クリーンなフリー素材!野生ヒラタケ種菌!ゲットだぜ!!!

(種菌つくりしてるとね、瓶がめっちゃモンスターボールに見えるのよw)

一度このおがくず種菌の状態にまでもっていったなら、そこからの拡大培養はとても簡単だし、チルド室に入れるなりして1年くらいの保存は可能。おがくずと米ぬかはタダなので、これからは種菌を無尽蔵に生産できます。

自作種菌を接種

自作種菌が出来上がったのが2月下旬。狙ったわけではないのですが、その頃がヒラタケの接種のベストタイミングでもありました。

ちょうどその頃、近くの伐採現場でフジとイヌシデの太い幹を大量に入手できたこともあり、早速自作種菌の接種を行いました。フジは長木栽培、イヌシデは短木栽培です。

種菌、ぬか、イヌシデのおがくずを1:2:3くらいの割合(実際はけっこう適当w)で混ぜて、水でドロドロにしたものを丸太の間に接種する。
短木栽培のイヌシデ。種菌のドロドロを二つの丸太でサンドウィッチにする要領で挟み、接種部に包装用ビニールラップを巻いて保湿した。
接種後ひと月たち桜が咲くころにはビニール部にまで菌糸が蔓延した。

この丸太、直径が35cmくらいあり、短木栽培とはいえ長さも25cmほどと長めに切断したので、それなりに長寿命榾木になってくれるはずです。3年は持ってほしいところかな。

このあと、梅雨入りごろに、2個一組の丸太をばらし、柿の木の下に並べておきました。そしてその後半年間、僕の意識からこの榾木たちが完全に忘れ去られてたのは内緒の話。

秋、ついに収穫の時!

接種から8か月たった10月下旬ごろ、まず長木栽培のフジの方にヒラタケが生えてきました。フジはスカスカなので菌の周りが早いようです。驚くことに、榾木はすでにぐずぐずになりかけていました。これは来年はもう使えないだろうなというほどにぐずぐずです。

フジに生えるとちょっと青っぽくなる気がする

そして、フジに遅れること半月後の本日、本命の短木イヌシデから大量のヒラタケが発生してきました。

これ全部、正真正銘、うちの裏の野生ヒラタケのクローンたちです!

めっちゃ美味そうだし、カワイイし、自作種菌だし、そもそも野生の株だし、なんというか、いろんな意味で感動。

さらにこうして時系列的に書いてみると、そもそもキノコっていう生き物が謎過ぎて、だいぶ面白いなコイツらと思えてきました。

PDA培地のサイコロがモコモコ菌糸になって、木に接種したら最終的にこれになるっていうの、ほんと信じられないくらい不思議すぎるだろ・・・

ポケモンでももうちょっと秩序ある進化するぜ・・・

っていう。

まあそれはともかく、アンチ種苗法的なマインドで始まった野生株種菌づくりはひとまず目標を達成し、結果的にきのこの不思議な生態にかなり心奪われつつあるのでした。

次は椎茸を胞子から育てて新品種とか作っちゃう?とかやりたくなってきた!(実は僕、椎茸があらゆる食材の中で最も嫌いであるのだがw)

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