前回、建前4日目では、「8.5mの下梁を地上にて追っ掛け金輪で組み、電動ウインチで柱の上に揚げる」という無謀な試みが成功し、下梁のホゾ穴に柱のホゾの先を少しだけ挿入し、その状態で板倉造りの板を落とし込む作業に取り掛かりました。
その後、僕の仕事の連勤のため中四日置いて、建前5日目、6日目。板倉の板を落とし込む工程から作業再開です。
中四日の間に一度大雨に降られましたが、基本的に二人で、仕事の合間を縫って行うセルフビルドでは、数日雨ざらしになるのは最初から覚悟の上ですし、合板を使わない構造で、かつ、構造材はほとんどヒノキを使っているため、雨がやみ水が抜ければまあ問題はなかろうということで、その辺はあまり気にせずやっていきます。(でもできるだけ早く屋根をかけたい!!)
板倉造りに落とし込む板は、杉の30mm厚・105mm幅、人工乾燥、実無し
今回、この小屋で採用した壁は「板倉造り」といって、溝を切った柱と柱の間に板を落とし込んで作っていく真壁です。
この小屋は、なるべく金物に頼らず木をあらわしで使う、という基本スタンスのもとに設計したので、壁は真壁にしたいというのが最初にありました。
だけど土壁は労力的にちょっと・・・と思っていたところに、板で作る伝統的な真壁があるというのを知りまして、この板倉造りを採用することにしたのです。
しかしながら、
師匠の薦めで、設計において僕が大いに参考にしている「渡り腮工法の住宅の作り方」丹呉 明恭 (著), 山辺 豊彦 (著) によると、この板倉造りの壁は、単に板を落とし込んだだけでは、耐力的に軸組だけの場合とあまり変わりがなく、それほど強度がないらしいのです。
(実際にある程度組んでみて実感しましたが、木造の建物というのは、軸組だけで壁がない状態だと、想像以上にグラグラするものです。)
そこで色々と考えるうちに、
落とし込んだ板に斜めの筋交いを打ち付けることで、構造用合板のような耐力面材的性質を持つのではないか?
というアイデアが浮かびまして、最終的に、構造用合板ほど”剛”ではないけど、単なる落とし込み板壁ほど”柔”ではない、という感じを目指し、板壁に斜めの筋交いを打ち付けるが、筋交いと梁の接合は金物で補強しない、という、剛と柔の中間を狙うことにしました。
そんなわけで、
建前5日目・6日目は、下梁(桁)を挿入する前の段階で、まずは柱と柱の間に板を入れる作業を黙々とやっていきました。
ちなみに、今回使用した板は、厚さ30mm、幅105mmの人工乾燥杉です。
セオリー通りで行くなら、板倉造りの板には本実を切ったものを使用するようですが、この建物は住居用ではなく、あくまで作業小屋なので、多少隙間風があろうが、光が透けて見えようが、まあそんなに気にならないだろうということで、実無しの板を使うことにしました。人工乾燥材なので寸法は安定してると思うのだけど、もし隙間があきすぎるようなら、のちのち、外壁側に杉板を鎧張りか大和張りにする予定。
また、屋根に使う27mm厚の野地板は、安く買ったデッドストック原板から自力で加工して取りましたが、30mmの厚さとなると原板の在庫が微妙なのと、スケジュール的に押していることもあって、今回は材木屋さんに頼み、坪単価8000円で出してもらいました。
これが本実加工済みの板だと、坪単価は倍になりまして、その辺も実無しで妥協した理由でもあります。
今回、柱に刻んだ溝は、幅30mm・深さ10mmの寸法です。
板の方は、ボッシュのレーザー距離計で測った柱の溝底to溝底の寸法マイナス3mmの長さにカットしました。
実際に板を入れてみたところ、溝底to溝底寸法マイナス3mmは、3寸5分幅の板を斜めに入れてから叩き込んで水平にできる最低ラインで、これより長く加工すると、斜めに入れる→水平にするっていうのが難しくなる感じがしました。逆に、マイナス3mm以上短くすると、今度は板が外れる可能性を上げてしまうことになり、この辺の加工は割とシビアにやってみました。
今になって思うと、溝の深さはあと5mm深くして、15mmに設定してもよかったと思います。
というのも、深さ10mmだと板のカットに割と精度が要求されるし、もし今後、柱が経年で動いた場合、板が外れる可能性がないとも言い切れない気がするのです。もっとも、今回の柱は最低でも14年寝かした天然乾燥材なので、そんなに動くことはまずないとは思うのですけどね。少し心配です。
図面を書いた段階では、柱の欠損が気になって、10mmにしたんだよなあ。確か。
あ、あと、ホゾ幅を100mmにしたので、10mm以上深くできなかったんだ。そういや。
板倉造りになっている柱間の下梁下端には、深さ17mmの溝を切ってあります。
17mmという寸法に特に意味はありませんが、まあ、少し深めに溝を切ってみた、という感じです。
その溝に対し、板の方は、柱の胴付きから15mmほどはみ出すように、最後の2枚の幅を調整して加工しています。
さすがに、人工乾燥材で、施工時に念入りに叩き込んだ板が、15mm/4000mmも縮むことはないよね?まさか。とは思いますが、ここもやや心配な部分ではあります。
ついにラスボス!8.5mの下梁を叩き込むときが!!
柱の間に板を入れ込み、柱の垂直を再度微調整したのち、ついに、この小屋の部品中最長にして最重、ゆえに最難関のラスボスである8.5mの下梁を入れる時がやってきました。
4間の桁行を一本で貫くこの部材は、天然乾燥杉・背240mm・幅120mmの4m材と5m材を追っ掛け金輪継ぎで継いだ、僕の渾身の作で、この部材さえ入れば、あとはもう消化試合、そんな風に思えるくらい、長くて重くてホゾ穴がいっぱいある部材です。
そもそも、この重い部材を地上で一本につないでから上に持ち上げることができるのか?っていう点からして、建前4日目に実際にやってみるまで全くの未知数だったわけで、7本の柱のホゾを一度に差し込むことが可能なのか?というのも、今回、実際に叩き込んでみるまでは完全に未知の領域でした。
正直、刻んでる段階で、
「こんな長い部材、ちゃんと入るんかいな」
という懸念が常に頭をかすめていたのは確かですし、
今回、実際に柱のホゾの先を差し込んでみたときの最初の段階でも、数本の柱が、穴の位置とホゾの位置が2cmくらいずれてて、ヒヤッとしたのですが、
結論から言うと、
マジで完璧に入りました!
ラスボス討伐完了です!
14本ある柱のうちのただ一本だけ、柱の胴付きと下梁下端の間に2mmの隙間ができていましたが(直上の写真)、それ以外の柱はほぼほぼピッチリ胴付きがくっつきました。この2mmのところは、基礎のレベル誤差ががっつり影響したようです。これ以上はいくら叩き込んでも入っていかない感じ。
でも逆に言うと、この2mm以外、特にこれといった問題点はなく、下端に切った板倉の溝の位置も、ホゾ穴の位置も寸法も、追っ掛け継の強度も、個人的には大満足の仕上がりで納めることができました。
胴差の時みたいに、部材を上に揚げてからミスが発覚するとかいうアクシデントがなくて、とりあえずめっちゃほっとしました。
ちなみに、ヒノキの土台のときとは違い、杉の下梁の場合、ホゾ寸法とホゾ穴寸法の差は2mm(ホゾ幅101mm・ホゾ穴99mm)でちょうどよく、7本の柱のホゾを同時に差し込んでも、堅くて入らないということはなかったです。杉の木口はそれだけ柔らかいということなのでしょう。
それにしても、こうしてある程度形が見えてくると、想像以上にすごいというかなんというか。
自分が凝り性なのはうすうす自覚してはいましたが、まさかここまで追い込んでガチなセルフビルドをすることになるとは・・・
そう思うと同時に、世の中には、一見素人には不可能なように見えて、やってみれば意外にできてしまうことも多いのかもしれないと、自分の中にある可能性を感じ取ったような気もしました。
てな感じで、8.5mのラスボス攻略が完了したのだから、今日ばかりは調子に乗って大きいこと言っても、いいよね?
小屋建前7&8日目に続く
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