小屋の屋根を葺く ②八千代折りといふものをするための治具を作る

小屋建設

前回、唐草を廻したところで本格的な梅雨に突入し、そこから二週間ずっと雨が降り続け、屋根作りの作業はしばしお預けとなっていました。

その梅雨の間に、新たに気付いたことが一つ。

それは、軒先唐草とルーフィングシートの位置関係について。

メーカーの施工マニュアルでは、「軒先唐草が下、ルーフィングが上」という説明がなされていて、一般的なセオリーでも両者の上下関係はだいたいそうなっているので、今回、僕もそのように加工しました。

がしかし、

板金を張る前の状態で、長雨に降られた後の様子を観察したところ、ルーフィングと唐草の隙間から毛細管現象によって逆流している水が結構あることに気づきました。

毛細管現象によって重力に逆らった動きをする水が結構ある

素人的な普通の感覚だと、三寸(約17度)も勾配があって、ルーフィングが唐草の上に覆いかぶさっている状態で水が下から上に上がっていくことはちょっと想像しづらいのですけど、実際の現象としてはそうなっていました。

水が逆流した距離は唐草先端から15~20cm、つまり、広小舞+野地板0.5枚分くらい。

そんなこともあろうかと、広小舞と外周2枚の野地板は桧の赤身が強い板を使ったので、この数回の逆流が腐れに直結することはないとは思うのですが、木の表面が若干雨染みみたいになってて萎えました。

この水の流れを全く想定していなかっただけに、地味に結構ショック(´;ω;`)

まあ、これからの工程で板金を敷いてしまえば、水の入り口は軒先の鼻桟のところくらいしかなくなるとは思うのですが、それでも、こういう水の流れがあるというのを最初から知っていたら、軒先から50cmのルーフィングは2重にしていたかもしれません。

下の図のように、ルーフィング+軒先唐草+ルーフィングという感じにするのが最強かなと思います。

理想的な構造はこんな感じなはず

こういうとこ、考え出したらキリがないですね。

ま、今回の小屋の屋根は、今からやり直す気には全然なんないので、このままでいきます。

鼻桟の部分から入る水くらいなら、そんなにびちょびちょ染み込むこともないだろうしね。

ということで、ルーフィングの上か下か問題はここまでにして、ここからが今日の本題です。

本題も、雨水の逆流をいかに防ぐかという問題に関係したものです。

樫の木で八千折りの治具を作る

八千代折り

今回使う屋根材「立平ロック20型(セキノ興産)」にしても、他のメーカーの屋根材にしても、立平型と呼ばれる方式の板金屋根は、棟側の端部に「八千代折り」という加工を施し、「水返し」と呼ばれる立ち上がり部分を作るのがセオリーとなっています。

この立ち上がり加工により、台風などの強風時に雨が入り込む確率を下げるわけです。

で、この八千代折りの加工方法っつうのが、これまた結構な謎に包まれていたのですよね。立平ロックの材料の単価が謎に包まれていたのと同じパターンで、ネット上の情報もあまり見つからない感じだったのです。

材料を出してくれた板金屋さんも、

「素人さんがやるなら、端部に切り込みいれてシーリングが楽なんじゃない?」

って言ってたし。

でも、そういわれると、なんとしてもその八千代折りっていうやつをやりたくなるのがセルフビルダーの性なのですよ(笑)

ということで、ネット上でかき集めた情報をもとに、こんな感じの水上立ち上げ治具を作ってみました↓

材料は薪として干してあった太い樫の木です。

その樫の木に手押し鉋をかけて矩を出して板にして、平行定規を取り付けた丸のこを用いて板の側面に16mmの深さの溝を切っただけ。溝の深さ16mmは、立平ロックの軒先の掴み込み寸法に合わせて決定しました。

立平ロック本体の凹凸に合わせて、両端だけ溝の幅を少し広くしてありますが、それ以外は何のギミックもない、何の変哲もないただの溝付き板です。

でも、シンプルだからと侮るなかれ。

この溝に立平ロックの端部を差し込み、そのままグイっと上に曲げると、うまいこと八千代折りの前段階の立ち上がりができるのです。

端部を差し込んで、ぐいっと曲げると・・・
一回の動作で、幅いっぱいの立ち上がりができた。
最後に、角の部分をハンマーでたたいて内側に折り込めば、八千代折りの完成!

いやあ、我ながら、また完璧な治具を開発してしまったようですな。

・・・

というのは言い過ぎで、

「八千代折り!」とか言って、なんか必殺技みたいな雰囲気を出していますが、立平ロックの場合、端部を上側に折り曲げると自動的に八千代折りになるような構造になっているようです。

したがって、この治具が特別優れているわけじゃなくて、端部を引っ掛けてぐいっと立ち上げる機能さえあればなんでもいいのです。

実際、本職の人は金属製の専用治具を使うらしいのですが、その専用治具も基本構造は僕の木製治具と変わりません。(価格は数万円とかしますけどね)

僕の場合、立平ロックを折り曲げる機会はこの先そうあるとは思えないので、即席の木製で全然構わないわけです。

なんなら、治具なしで、ツカミ箸だけで立ち上げてもOK。

とはいえ、治具を使うのと、60mmのツカミ箸だけでコツコツ立ち上げるのとでは、労力がだいぶ違います。54枚の水上立ち上げを全部ツカミ箸だけでやってたら、確実に右手が豆だらけになるはずです。(八千代折りの試作を数回やっただけで、すでにもう豆出来てるし)

また、ツカミだけでチマチマやるとなると、時間も大幅にかかると思うのです。この治具の制作時間は約15分なので、治具によって節約される時間と比べると結構な差になるんじゃないかなと。

それにこの治具、水上側の立ち上げだけじゃなくて、軒先側のツカミ込みのガイドとなる曲げも作れてしまうのですよ↓

軒先側も、白い墨線に沿ってまっすぐ曲げられる

即席治具のわりに、水上立ち上げと軒先の曲げ、二つの仕事をこなせるなんて、なかなかいい出来じゃない?

正直なところ、最初、ツカミ箸だけでこの立ち上げ部分を試作したときは、素人感丸出しのでこぼこ感に絶望しかけましたが、この治具を作ったことで、プロの仕事とは言わないまでも、なんとか見れる感じのまっすぐな加工を施すことが可能になりました。

これまでの小屋建築の中で、作っては見たものの使わなくなる治具も多い中、この治具に関しては、立平葺きの屋根工事の必需品となりそうです。

  

あ、あとちなみに、今回写真に納めた板金はすべて、材料発注時に試作用として1枚余計に頼んでおいたものなのですが、この一枚は頼んでおいてほんとよかったです。

僕にとって全く未知の領域である板金作業に取り掛かるにあたって、試し切りや嵌合部の細かいディティールの試作、それに今回の治具作成など、失敗してもいい材料を使うことで、だいぶ多くのことを試せたと思います。

なんにしてもそうですが、特に屋根の板金作業に関しては、メーカーのマニュアルだけじゃわからないことが多すぎるので、余分な材料を頼んで試作してみるのが一番いい方法だと思います。

次回、本体敷設①に続く

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